スーパーや街中で、最近目にする機会も徐々に増えてきている「ビーガン」。ビーガン(vegan)とは、卵や乳製品を含む動物性食品を口にしない「完全菜食主義者」を指します。日本でも少しずつ周知されつつある背景には、ハリウッド女優をはじめとする海外の著名人たちが健康や美容、メンタルのセルフメンテナンスのためにライフスタイルに取り入れていることが話題として取り上げられることがあります。
しかし、動物性食品を一切口にしないというのは、なかなか想像しにくいことかもしれません。また、誤った理解で生活に取り入れてしまっては、逆効果をもたらす可能性もあります。そこで、ビーガンを正しく理解するために、株式会社みんなのごはん・代表取締役 岩溪寛司さんに、3回に渡り、ビーガンについてお話しいただきます。
目次
「ビーガン」とは?
私がビーガンという言葉に出会ったのは、今から約14年前です。
その頃は、ビーガンという言葉の認知度は大変低く、説明するのに難儀したのを覚えています。しかも説明が終わっても納得してもらえる訳ではなく、なんとなく居心地の悪さを感じさせてしまった、という印象だけが残ったものでした。
あれから10年以上の月日が流れ、今やビーガンという言葉はおそらく食業界での認知度は相当高いはずです。むしろビジネスの現場、特に食に関する話題の場でビーガンという言葉を聞いて、知らないとなるとちょっと話にならない様な……そんな時代になりつつあるのではないでしょうか。
ここで改めてビーガンを簡素に説明すると、「あらゆる動物性食品を食べないライフスタイル」のことを言います。
これは主に食事ですが、人によっては衣類や化粧品などの日用品にまで意識が及ぶ人もいます。
ビーガンの背景にある、カーボンニュートラル
このような、ある種特殊なライフスタイルがなぜここ数年食業界を中心に認知を高めているのでしょうか。
その大きな理由としてはカーボンニュートラルがあります。
(出典: https://www.fao.org/3/a0701e/a0701e00.htm )
2006年のFAO(国連食料農業機関)によれば、2050年までに人口増加により肉の需要は拡大を続けるとレポートされていて、動物性タンパク質源である畜産業は「大量の二酸化炭素を排出する」とあります。これは、人間活動による総排出量の18%にもなり、これは自動車や飛行機などの輸送手段の13%を上回ります。
これらの部分が注目され、昨今、動物性タンパク質依存からの脱却が叫ばれるようになりました。
それに伴って華やかになってきたのが、フードテックをベースとした代替肉ブームです。
これは植物性タンパク質を科学の力で動物性タンパク質、つまり肉に近づけた商品を開発して市場に投入しようという流れです。この流れには有名投資家などが多額の投資をしたため上場する企業も登場し、盛り上がっている様に見えます。
しかし現状はどうでしょうか?
これは誰が食べるのでしょうか?
世界のベジタリアンの人口はインドなどのベジタリアン大国を除くと平均約7%程度です。ベジタリアンは乳製品や卵を食べる人もいます。この中であらゆる動物性食品を食べないビーガンの人口は1%未満とも言われています。
(出典: https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001335459.pdf )
代替肉を買う人とは?
では、代替肉企業はこの人口の約1%〜7%の人たちの為に多額の投資をしてまで代替肉を作るのでしょうか?
そんなことは、ありません。
彼らが対象としているのは今までお肉を食べていた人たちです。
実際、スーパーなどで買い物をするのは、主婦の方が多いでしょう。その主婦の方々はほとんどが家族の為の食材を購入します。主婦が代替肉を買う理由とは、一体何でしょうか?
主婦が30年後に訪れるであろう食糧危機を、またはカーボンニュートラルを意識して代替肉を買うでしょうか?
もちろん中にはそういう環境意識の高い主婦もいらっしゃいますし、ベジタリアンやビーガンの方にとってはあり得る話だと思いますが、一般的な主婦が対象となると、私にはちょっとイメージできません。
となると、代替肉は私たちの家庭には関係ないのでしょうか?
いいえ、違います。
長年慣れ親しんできた習慣を変えるということは非常に難しいことです。
毎年お正月に今年こそはランニングを始めようと意を決しても結局三日坊主。
似たようなことは誰もが経験するように、お肉を習慣的に食べていた人が代替肉にシフトする、というのは非常に難易度が高いのです。そのためには個人のインセンティブ(報酬)に訴えかけない限り行動は変わりません。
例えばプリウスなどのエコカーを例にとれば、エコカーは購入時に補助金もあれば減税もありガソリン代も少なくて済む。つまり財布に優しいから購入するのであって消費者は地球環境に関心がある訳ではありません。(もちろん一部に環境意識の高い方もおられる前提で)
結局「エコ」が個人に響くのはエコロジーではなくエコノミーであって、個人的なインセンティブに直結することで購入動機につながるのです。
代替肉が「当たり前」になるためには……
では、代替肉が家庭に普及するにはどうしたらいいでしょうか?
主婦が買うようになるにはどうしたらいいでしょうか?
前述したようにまずはエコノミーに訴えかけること、価格、税金、ポイント、などで購入のハードルを下げることです。そして、継続的に買ってもらえるように代替肉だけではなく、如何にその食習慣が最先端で洗練されているかを伝えていくことです。
今の代替肉ブームは頭でっかちになっていて消費者の立場に立てていません。完全に、売り手都合の「善いものだから売れるはずだ」という前提に立っています。
主婦は、地球環境よりも今日の家族の夕食の献立やその食費に最も関心があります。地球環境のことを意識するのは、ずっと先です。
むしろ自分の行動が自動的に地球に優しくなっていれば一石二鳥なのにな、と思っているはずです。
しかし、今、まさにこの一石二鳥の仕組が必要なのです。
売り手は「善いもの」を作るのと同時に、家庭の主婦が代替肉を日常的に購入する様になるには、まず主婦の目線に立って「仕組み」も整えていく必要があります。
本当に前述した地球環境の為に代替肉を普及させたいのであれば、企業と政府が連携して主婦が買いやすい道を作ることが必要不可欠なのです。
岩溪寛司(いわたにかんじ)
京都出身
株式会社みんなのごはん・代表取締役 CEO
ビーガン検定・代表
国境なき料理団・共同代表。
2006年に音楽を志して京都より東京に上京。音楽活動中にビーガンになり、その後NPOを設立し音楽活動と並行して啓蒙啓発活動を開始。ベジタリアン業界では知られたバンドになり海外公演も経験するが2013年に解散。2014年に株式会社みんなのごはんを設立。趣味はランニングからトレラン、今は筋トレがメイン。
株式会社みんなのごはん
https://www.minnanogohan.com/