試されるチャレンジ精神とマネジメント能力<宇宙開発を通じて考えるキャリア形成 vol.1 >

【コラム】暮らしをワンランクアップ

みなさんは、「宇宙開発」と聞いて何を連想されますか?
ポジティブな連想ですと、夢・挑戦といった言葉や、最先端技術や信頼性というようなエンジニアリングの最高峰の一つといったイメージを想像される方が多いかと思います。逆に、ネガティブなイメージですと多額の開発資金やロケットの爆発の様子から大失敗や無駄が多いというイメージを持たれる方もいるかもしれません。
いずれにせよ、最近ニュースなどではよく見かけつつも、未だ身近なものではないような印象ではないかと思います。

そんな「宇宙開発」について、3回にわたり、わかりやすく教えてくださるのは株式会社YspaceのCTOであり、関西大学にて非常勤講師も務めておられる岩崎祥大さん。キャリア形成のお話と絡めながら、宇宙開発についてわかりやすくご紹介くださいます。1回目の今回のテーマは、「試されるチャレンジ精神とマネジメント能力」です。

 

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宇宙は今や、どんどん身近な存在に

スペースシャトル

宇宙開発に携わる立場から、まず皆さんにお伝えしたいのは、結構沢山の会社や大学で人工衛星開発などが進められており、「宇宙」は存外身近になっているという現実です。なんと、今や大学学部生が人工衛星を作ることが当たり前になってきているんですよ。

ただし、そのような身近な人工衛星は、もちろん衛星通信や気象予報に使われるような重さ数トンの大きな衛星ではありません。縦横高さ数10 cmの「キューブサット」と呼ばれるものです。重さも10 kg以下です。キューブと名を冠しているように、基本的に直方体の形をしています。

でも、こんな人工衛星でも、日進月歩。小型化が進む電子機器業界の後押しもあって、高画質な地上の撮影ができたり通信ができたり、人工衛星としての一通りの機能は備わっているのです。さらに、ここまで小さいと開発費も安く抑えられ、大きな人工衛星と一緒にロケットで打ち上げてもらえたりしますので、宇宙への打ち上げ費用も安く抑えられます。今や、大学工学部の学生教育としてキューブサットは丁度良い教材となっているんです。

このような小さい衛星などをきっかけに、宇宙開発のハードルはどんどん下がっています。実際に、2003年に世界初のキューブサットとして東京大学の「XI-IV」、東京工業大学の「CUTE-1」、スタンフォード大学の「QuakeSat」が打ち上げられて以降、急速にキューブサットの開発数は増えました。特に2017年のキューブサット打ち上げ数はすさまじく、世界で約300機打ち上げられています (参考:Smallsats by the Numbers 2020, Bryce Space and Technology社)。

大学に限らず、企業の長期的な研修としても良い課題ではないかと個人的には思っています。
実際に2021年3月14日には『普段は宇宙開発に関わっていないサラリーマンが身近で誰でもできる宇宙開発を実現させる』ことを大きな目的として、リーマンサットという衛星が地球周回軌道に投入されました。趣味で宇宙開発を行い、本当に作った衛星が打ち上げられて運用されるようになっているのですから、まさに宇宙開発が身近になったと言えるのではないでしょうか。

チャレンジ精神を養うということ

一方で、少し私が危惧しているのは、キューブサット開発を皮切りにハードルの下がった宇宙開発の「次なるチャレンジ」について、まだまだ皆が模索中であることです。

身近にキューブサット開発が行えるようになった背景には、人工衛星のコンピュータや姿勢制御装置、電源などが開発キットとして商品になったことが大きく関係しています。もちろん、技術的な困難は伴いますが、それなりお金を出してキューブサット開発キットを揃えてしまえば人工衛星は作れてしまいます(もちろん、すべて買い物で揃えると数千万円しますので、決して簡単ではありませんが…)。こうなると、新しく衛星に搭載する電子機器を小型化するなどという技術的な目標より、如何にメンバーをまとめ上げて品質保証をするか?といった、いわゆるマネジメント課題の側面が大きくなってしまうのです。

そもそも、人工衛星など宇宙空間を飛んでいるものは壊れても基本的に修理ができません。「どうあっても手元には戻ってこない精密なラジコン」というイメージを持ってもらうと良いかもしれませんね。そのため、人工衛星にはとても高い信頼性が求められており、開発では品質マネジメントが重要となってきます。

技術的にチャレンジする。例えば最近スマホを台に置くだけで充電できるようになっていますが、そういった新しい技術を導入するだけでも、品質マネジメントの観点からすると「リスク」になってしまいます。キューブサット開発キットも大学で手が出る範囲ですが、当然安いものではありませんので。どこまでリスクを負うか難しいところです。こういう状況であるからこそ、様々なモノづくり企業が先頭に立って人工衛星開発に取り組み、自社の得意なところを生かした技術的チャレンジを乗り越えることで、宇宙開発の次のチャレンジを促すと期待しています。例えば、電子基板や電池などの会社などは技術的に面白い課題がまだ沢山あるんですよ。

キャリアステップと宇宙開発


これをキャリアステップの観点から見てみると、人工衛星などの全体的なシステム開発について、どんどん裾野が広がってきていることは事実です。また、人工衛星開発マネジメントを進められる人材は、どこの会社にいても中心的な存在となりえるでしょう。

一方で、周りとは一味違った「とんがった」技術によるイノベーションを業界が待ちわびていることも事実です。

敷居の下がった宇宙開発の世界を舞台に、チャレンジとマネジメントのバランスが試されるとてもよい機会だと思いますので。ぜひ興味を持たれた方は年齢関係なく宇宙開発に参加してみてくださいね。

ちなみに…いくらしっかりマネジメントしても、思いっきりチャレンジしても、どうやっても宇宙へ打ち上げられる際の緊張感は「えげつない」。このことは、ぜひご承知おきをば。その時、心の奥底にある仲間や自分の本音が見えて、一気に自身のキャリアステップ像がひっくり返される人も沢山います。まさに自分を見つめ直す格好の機会なのです。

岩崎祥大さんによる「宇宙開発」の記事一覧

 



岩崎祥大

株式会社Yspace CTO。関西大学非常勤講師。
2013年京都大学工学部工業化学科卒業。
2018年総合研究大学院大学にてロケット推進薬に関する研究で博士(工学) 取得後、宇宙航空研究開発機構 (JAXA) にてロケット開発や惑星探査機の研究に従事。その後、株式会社Yspaceにて惑星探査用ロケット推進システムの開発事業を立ち上げる。
学研マナビスタで「ロケット博士イワサキの宇宙Q&A」をオンライン連載するなど、子供向け教育活動も勢力的に行っている。
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