Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Arts(芸術)、Mathematics(数学)の頭文字を取った名前であり、この5つの領域を横断して学びを深める教育手法の一つ、「STEAM教育」。近年注目されている教育手法で、自分自身の価値観や感性に従って創造活動を行う教育方法です。
2回に渡り、この「STEAM教育」について、株式会社KAMAKEのすすめ 代表取締役であり、東京学芸大こども未来研究所 STEAM教育プロジェクトにて教育支援フェローを務めておられる北山貴彦さんに紹介していただくシリーズ。
1回目では、なぜSTEAM教育が必要なのか?人間の創造性とは?について教えていただきました。2回目の今回は、具体的にどのようなSTEAM教育をおうちで実践すればいいのか?についてご紹介いただきます。
目次
STEAM教材の選び方
まずSTEAM教育の5つの領域のうち、Arts(芸術)は創造活動の取り組み方やプロセスにて学ぶことができますが、残りの4つ領域についてはこれらを自然と活用できる教材を選ぶ必要があります。
例えば、私がSTEAM教室で実際に使っている台湾メーカーが製造販売している“Gigo”というブロック教材では、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)に触れられるように、自然の力を活用可能な風力・水力機構や太陽光パネル、力を伝えるためのギアや軸などのブロック、電気を活用するための電気回路やモーターなどを簡単に扱うことが可能になっています。
つまり、教材で活用している科学・技術領域が、そのままこどもたちが身に付ける“Ⅰ. 専門スキル”となります。
加えて教材選びでもう一つ注意して頂きたいのが、購入した1セットで何種類のモノ・システムを作ることができるのかです。1セットの教材で何十種類のモノを作ることができるようになっているということは、こどもたちの多様なアイデアや活動を表現する余白があるということになります。
一方、1パッケージで一つのモノしか作れない教材もありますが、このような教材はゴールとするモノ・システムを作るために特化された部品が多く、マニュアルがないと作れないため、こどもたちの創意工夫が入る余地がありません。是非、こどもたちが自由にモノを作れる余白がある教材を選んでください。
創造活動のテーマ設定
次に創造活動のテーマの選び方ですが、これは自動車や電車などその子が好きで日常的に触れている、利用しているモノを模して作るテーマにしましょう。
最初は好きなモノをテーマにすることで、こどもたちの頭の中にあるイメージで作り始めることができるので、マニュアルがなくても自然と手を動かすことができます。また好きなものであれば、その模しているものの特徴を抽出してその部分を教材で表現しようとしたりすることができるようになります。
好きなものをテーマに作ることが慣れてきたら、次はより高度な機構が含まれているモノ・システムをテーマにしてみましょう。
ここでのポイントは、頭にないイメージのモノを作るために、模倣するモノ・システムを観察したり、実際に利用して体験するという活動にチャレンジすることです。
これでこどもたちの創造活動の幅はぐっと広げることができるようになります。
必要な知識を吸収して、それを実現しようと創意工夫するプロセスはまさしく“Ⅱ. 創造性プロセス”のスキルを身に付けているフェーズなのです。
創造活動の取り組み方
教材も活動テーマも決まったら、いよいよ創造活動に取り組むのですが、このときに大人は何をすればいいのか? 実は基本的に何もありません。
見守るだけでいいのです。
こどもたちの作りたいテーマがあると、あとはモノと対峙することで、「もっとこうしたい!」「あれも付け加えたい!」という欲望が生まれてきます。
つまり、モノがこどもたちの創造活動を押し上げてくれます。
もし何か新しい機構や仕組みに取り組ませたいときは、その仕組みが一番の特徴として使われているモノをテーマとしてこどもたちに提示して「作りたい!」と興味も持ってもらうことが重要です。大人の仕事はここだけですね。この興味の度合いが“Ⅲ. 内発的モチベーション”へと繋がるのです。
逆に大人が気を付けなければいけないことは、こどもたちが試行錯誤しているときに大人が考える計画やアプローチを押し付けてしまわないことです。
子どもたちはわからないながら手を動かしていると気が付けば課題を解決してしまっているということがよくあります。
この一見脱線してしまっている状況を見て、すぐにゴールへの道筋を暗に示そうとする大人が多いですが、ここは是非、見守ってください。
ブロックを触っている限りは何かを模索しているのです。このように先が見えない中でも模索して課題を突破していく経験が “Ⅲ. 内発的モチベーション”である自己効力感の向上にも大きく繋がってきます。是非、多くの失敗をさせてあげてください。そして、そのような場を提供してあげることが“Ⅳ. 社会環境”の実現になるのです。
創作活動が一通り終わったら、最後は工夫した点やどうやって課題の解決したのか自分の言葉で語るのを聞いてあげてください。そのように自分が取り組んだことを言語化して思い出そうとすることで、さらに4つのスキルセットが整理されて身に付き、意識的に活用できるようになります。
大人からこどもまで取り組むべき自分自身の価値観や感性に従った創造活動
以上がおうちでSTEAM教育を実践するための方法となります。是非皆さんも、おうちで実践してみてください。
しかし、このような活動は、やはりこどもだけなく論理性・客観性偏重の環境に身を置いている大人も実践するべきだと私は考えています。何か企画書を作る必要もなく、誰かに進め方を指示されることもなく、思うがままに手を動かし、そこからヒントを見出し、課題を解決していくという場を大人も持つべきなのです。そのよう想いから私は社会人向けの創造活動セミナーを企業や個人向けにも開催しております。興味がある方は是非、一度遊びに来てください。
このような活動やSTEAM教育により少しでも自分自身の価値観や感性に従った創造活動に取り組むことができる場が増えることを願っております。
北山貴彦
株式会社KAMAKEのすすめ 代表取締役
東京学芸大こども未来研究所 STEAM教育プロジェクト 教育支援フェロー
神戸大学 大学院工学研究科電気電子工学専攻 修了2013年 半導体メーカー ルネサスエレクトロニクス株式会社へ入社し、自動運転向け半導体の開発、製品企画、顧客対応に従事。2017年に同社を退社し、株式会社 KAMAKEのすすめ を設立。「感動体験は人生の道しるべ」を合言葉に、こどもから社会人まであらゆる世代の人々が自分自身の価値観や感性に従ってテクノロジを活用した創造活動に取り組むことができる社会の実現を目指して、プログラミング教育・セミナー事業を展開している。
本コラムにてお伝えしているSTEAM教育の考え方は神戸芸術工科大学 映像表現学科助教 金箱淳一 先生と玉川大学 工学部エンジニアリングデザイン学科助手 平社和也 先生と株式会社KAMAKEのすすめ 北山により構成されるSTEAM教育構想ワーキンググループの活動によって得られた知見を基に北山が執筆しております。改めて金箱先生、平社先生に感謝を申し上げます。