宇宙開発でベンチャービジネスは成立するか?<宇宙開発を通じて考えるキャリア形成 vol.3>

【コラム】暮らしをワンランクアップ

突然ですが、ベンチャー企業とはどういう企業なのでしょうか?
ベンチャー企業とは、最先端技術や全く新しいビジネスモデルで新たな価値の創造を目指す会社という定義がなされています。要は、単に規模が小さい会社というわけではなく、イノベーティブな目標を持った会社ということですね。また、ベンチャーキャピタルと呼ばれる未上場の企業へ投資と経営支援を行う会社から資金を集めることが多いです。

それが、ここ数年、マスメディアでも「宇宙ベンチャー」という言葉を聞くようになってきました。でも、宇宙開発とベンチャー? 一見、その繋がりがよく分からないかもしれません。株式会社YspaceのCTOであり、関西大学にて非常勤講師も務めておられる岩崎祥大さんに「宇宙開発」について3回にわたって教えていただくシリーズ。

 
第1回目は、主に社会人・大学生向けに「試されるチャレンジ精神とマネジメント能力」というテーマで、第2回目は、小学校高学年や中学生の方を想定した「宇宙教育とキャリア形成」についてお話いただきました。

最終回となるこの記事は、今までとは少し趣向を変えて、社会人として既に活躍中の方を対象に「最近話題の宇宙ベンチャー」に関してお話しいただきます。

 

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「宇宙ベンチャー」が成立する時代の到来

ここ数年、マスメディアでも「宇宙ベンチャー」という言葉を聞くようになりました。そのトップをひた走るのが、大富豪イーロン・マスク氏の創設したロケット会社「Space X (スペース エックス) 社」です。

このSpace X社が打ち上げるロケット、ファルコン9は衛星を載せて宇宙に打ち上げられると宇宙から帰ってきて、着陸するのです。昔は宇宙に行って帰ってくるスペースシャトルがありましたが、ファルコン9が凄いのは、なんと同じロケットで9回 (2021年4月時点での最高記録) も宇宙に打ち上げられたことです。

さらに、「ファルコン ヘビー」というファルコン9を三本束ねたロケットは、3本すべてが宇宙に打ち上げられてから着陸するのですが、3本同時に宇宙から狙った位置に着陸します。初めてファルコン ヘビーの打ち上げを見た時は、ロケットの研究者としてSpace X社のあまりの技術力に言葉が出ませんでした!

ロケットイラスト

 

宇宙ベンチャーと一般的なベンチャーの違い

この高い技術力を誇るSpaceX社が、昨年新たに調達した投資は、19億ドル (約2000億円) です。SpaceX社立ち上げ当初は大富豪イーロン・マスク氏の多額の私財が投じられたようですが、今やSpaceX社は約2週間に一回の頻度でロケットを打ち上げ、宇宙飛行士すらも運ぶロケット会社になりましたから、数千億円の投資価値と見られても不思議はありません。

Space X社の開発方針で特徴的なのは、「失敗を恐れず糧として開発を行う点」です。まずはモノを作ってみて、動かしてみて、問題点を洗い出すのです。まさに技術への挑戦としてあるべき姿ではあると思いますが、ロケット相手ですと少し間違えば大爆発を起こしますから、これを実践するには余程の開発センスと広大な土地が必要になりそうです。実際、ロケットエンジンの燃焼試験なんて、点火が近づくにつれて楽しさを感じることはどんどん減っていき、恐怖との戦いです。これらの開発を支えた初期投資費用こそイーロン・マスク氏の私財でしょう。

ここに、一般的なベンチャー企業と宇宙ベンチャーの最先端企業との大きな違いがあります。
宇宙開発、ロケット開発のポイントは失敗すらも糧にして経験を積んでいくことですが、一般的にベンチャーキャピタルから受ける投資額、数千万円程度ではこの開発失敗を許容するだけの余裕がありません。それどころか、ベンチャーキャピタルから見れば投資したベンチャー企業が上場などして株の売却で利益を得なければいけませんから、早く開発が実を結んで欲しいというのが本音でしょう。

 
Vol.1でも述べましたが、数10 cm程度のキューブサットですら簡単には作れず手間取ってしまう技術力の現状では、スピード重視の一般的なベンチャー企業とは相性が悪いのかなとも思ってしまいます。

一方で、そもそも世の中に売れるロケットや人工衛星を作るなんて、それこそ一朝一夕には不可能です。創設当初から順調に売り上げを出す宇宙ベンチャーなどほとんどありません。大学発ベンチャーとしてキューブサット開発に長けた大学で熟成させた技術を元手に立ち上がった会社は、豊富な人材や知識の支えもあって上手く発展してるようです。

宇宙のイメージ

 

空の向こう側に果てしなく広がる未知が待っている

ここまで、資金や先立つ技術のお話をしましたが、宇宙ベンチャー企業が成功するポイントは「宇宙空間をインフラ整備の場として捉えているかどうか」だと思います。

Space X社はロケット、つまり宇宙と地球を繋ぐ輸送インフラの会社ですし、GPSや通信無しには成り立たない現代社会で人工衛星は情報インフラの鍵になっています。今や漁業データを宇宙から取得したり、GPS通信で大型トラクターが無人運転する時代ですから、人工衛星開発は余程のアイデアが無ければ淘汰されてしまいます。

Vol.1では、もはや宇宙開発はチャレンジだけの場ではなく、斬新なアイデアと品質マネジメントの両方が求められるとお話しました。今回述べたように、もはやビジネスの世界を舞台に、投資と開発のせめぎ合いが始まっているのです。ただし、すべてのビジネスが上手くいっているわけではなく、むしろチャレンジとマネジメントのバランスに悩んでいる会社の方が多いと思いますが…。そして、Vol.2でお話ししたように、子どもの頃から様々な興味・知識と本物に触れてきた人が、これからの宇宙開発の世界を楽しくリードできるのだと思います。

地球イラスト

最後に、何よりも大切なことですが、そうまでしてたくさんの人たちを宇宙開発に駆り立てるのは、やはり「空の向こう側に果てしなく広がる未知が待っている」からなのだろうと思います。ぜひ、このコラムを読まれましたら、夜には月を見上げてみてください。頭のすぐ上にある月にだって、まだ人類は12人しか行ったことがないのですから。

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岩崎祥大

株式会社Yspace CTO。関西大学非常勤講師。
2013年京都大学工学部工業化学科卒業。
2018年総合研究大学院大学にてロケット推進薬に関する研究で博士(工学) 取得後、宇宙航空研究開発機構 (JAXA) にてロケット開発や惑星探査機の研究に従事。その後、株式会社Yspaceにて惑星探査用ロケット推進システムの開発事業を立ち上げる。
学研マナビスタで「ロケット博士イワサキの宇宙Q&A」をオンライン連載するなど、子供向け教育活動も勢力的に行っている。
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