新学期を迎え、進学、進級に晴れやかな気持ちになる時期ですね。と同時に、子どもの勉強について悩みを抱えるママ、パパも多いことでしょう。そこで今回は、学習塾「ソラオト」を経営し、多くの中高生と出会ってきた奥野貴俊さんに、中高生との親子関係についてアドバイスをいただきます。
目次
spoilとは?
“spoil”と言う英語の動詞をご存知でしょうか? この”spoil”を辞書で引くと「〔物・事を〕台無しにする、だめにする、悪くする、役に立たなくする」などの意味に加え、「〔子どもなどを〕甘やかす、〔甘やかして〕駄目にする」という意味があります。
最初からネガティブな意味の英単語をご紹介するのは少々気が引けるのですが、この単語の意味することが、私がこの何年か日々中学生や高校生との関わりを通して、現時点で考えていることをある意味集約していると思い、キーワードとしてお伝えできたらと思います。
ソラオトとは
私が共同運営している学習塾「ソラオト」は私を含めてスタッフ2名で運営している三軒茶屋にある本当に小さな英語・数学のマンツーマンの教室(私は英語担当)なのですが、お陰様でこれまで多くの中高生に出会ってきました。
本来であれば、○○大学何名合格!や△△高校合格!と言えば、生徒数が更に増え、運営上プラスになるのかもしれませんが、実はそこにそもそもあまり興味がないので、合格者数等を打ち出した営業はしておらず、むしろ勉強が苦手な方、学習に悩みを抱えた方を中心に積極的にお引き受けしています。
マンツーマンの利点を活かし、生徒さんひとりひとりと向き合い、学習を通じて、またはコミュニケーションを通じて、人間的な成長や自立を手助けする場所として、日々活動しています。従って、いわゆる「受験予備校」や「進学塾」ではなく、あくまで「学習塾」、ともすれば「私塾」かもしれません。
また、そもそも創業当時の2014年頃は、学習塾というよりも、STEM教育を目指した教育の場として、まだまだブルーオーシャンな業界のかなり端の位置に立っていました。そしてこれは現在でも変わらない、「大学の研究室を町中へ」というコンセプトが当初からあり、スタッフ2名があたかも大学教授として存在し、生徒さん達の自立を支援し、個々人の目標をサポートすることに奔走してきました。
ご存知かもしれませんが、大学教授の仕事は知識の教授が主ではなく、学生自身の学びを導く、監督者という意味の”supervisor”という役割です。ソラオトのような場を作ったきっかけは私の大学時代の経験に拠るところが大きいと思います。理系の大学3年生までは中高と同様に授業を受け、テストで良い点数を取るという進級システムの中にいます。
しかし、大学4年になって研究室に配属されると、突然テストではない、卒論という、これまで慣れ親しんだものとは異なる評価基準に晒されることになります。そこで例えそれまでの成績が悪くても、卒業研究を通じて、能力を発揮する人を何人もみてきました。大学の研究室でのチャレンジをしながら学ぶ方法は、中高生にもきっと役に立つのではないか、そういう考えの下これまでソラオトを運営してきました。
親子関係が現れる瞬間
そんな学習塾の門を叩く際、通常、保護者の方が同伴して中高生が体験授業にやってきます。毎回儀式のように、私の名刺を中高生に先に渡し、保護者の方には後からお渡しします。その後、席について頂いて名前等を伺うのですが、その時、最初から保護者の方がお話し始める場合があります。
このタイミングが私にとってはこの先を占う非常に大きな分岐点になります。私にとっては、親子関係を確認する最初の場面になります。好きな科目などのシンプルな問いかけに対してなかなか発言できない中高生、若しくは保護者の方の発言状況を注視します。
中高生といえども、コミュニケーションに問題を抱えており、こちらの問いかけにそもそもうまく答えられない方もいるので、あくまでひとつのチェック項目ではありますが、大抵の場合、お話を聞いていくとどういう親子関係なのか、この項目で汲み取った想像通りの形であることが多いのです。
子どもは親の生き写しではなく全くの別人格
教育について語ると、往々にしてその人のこれまで受けてきた経験談になることが多く、逆に言えば、その経験の中で得たことが全てである思い込んでしまう傾向があります。また、指導する側はその経験に基づいた判断や教育的な指導をすることが必然的に多くなります。指導する側となる親についても、父親と母親の間でさえ異なる意見になることも。
親子関係においてもそうで、親の経験に深く基づきながら、子どもは幼い時から、多種多様な指導をされていきます。その結果、当たり前ですが、中高生の「性格」だけでなく、様々な場面での「判断」に影響が出ます。
そして厄介なことに、中高生の時期は思春期と重なり、反抗期がやってきます。その時期には往々にして「子どもが何を考えているのか分からない」という声が保護者の方々から聞こえてきます。
また本当に多いのが「コツコツ日々勉強をしてくれない」という保護者視点の声です。
これらの声を聞くと、保護者の方がこうなって欲しいという願望に、少し大げさに言えば、生徒さん達が沿った生き方をしていないという、願望が満たされないという保護者の方の感情が見て取れます。
しかし、子どもは親の生き写しではなく、全くの別人格です。子どもには子どもの人生があります。また彼らが生きている時代は、保護者の方々が過ごしてきた青年期とは異なります。保護者の方々が子どもの頃は、インターネットへのアクセスもあまりなかったでしょう。
また当たり前ですが、保護者の方々の親の世代は更に異なります。戦中・戦後の時代は多くの子どもが生まれ、兄弟・姉妹が多い家庭が多かったと思います。しかし、現代、特に日本はそういう時代ではなく、むしろご存知の通り少子化が起こっています。そんな時代に、親はどうすれば良いのか。親はこの時代にどう振る舞えば良いのでしょうか。
時代に合わせ、また、子どものひとりひとりに合わせた、導き方が重要なのです。
奥野貴俊
1973年三重県生まれ。東京・三軒茶屋の個別指導学習塾ソラオト共同代表(英語担当)。工学院大学大学院工学研究科修士課程終了(情報学専攻)、2003年英国シェフィールド大自動制御システム工学部博士課程終了(Ph. D)。2005年リオン株式会社勤務(R&Dセンター)。2010年英国アルスター大学Intelligent Systems Research Centre研究員。2014年工学院大学情報学部非常勤講師。学生時代から音響信号処理を専門とし、リオン株式会社ではディジタル補聴器の研究開発に従事。アルスター大では、脳における聴覚信号処理の研究に従事。その後独立し、2014年にソラオトを共同設立。著書に『MATLABではじめるプログラミング教室』(コロナ社)。
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