前回は、自立型の高齢者施設での暮らしの様子をご紹介しました。続く今回は、介護型の高齢者施設での暮らしをご紹介します。介護型にもいくつかのタイプがありますが、今回ご紹介するのは「介護付有料老人ホーム」と「特別養護老人ホーム」です。まずは介護付有料老人ホームから、写真と合わせて見てきましょう。(写真は実際に私自身が見学したホームのものをイメージ写真として使用しています。)
目次
決められたスケジュールに沿って24時間体制での介護を受ける
介護付有料老人ホームの月額費用には上乗せ介護費が含まれている
介護付有料老人ホームは、「介護付」という名称の通り、介護を受けることを目的に入居する施設です。「介護付」という表記がある有料老人ホームは、自治体から「特定施設入居者生活介護」(以下.「特定施設」)の認可を受けています。
ちなみに昨今では、介護を受ける方が数多く転居してくるのを抑えるために、「特定施設」の認可をなかなか出さない(申請数よりも認可の数がかなり少ない)自治体も増えています。そのため、介護を受けることを目的に入居する有料老人ホームであっても、「特定施設」の認可を持っていない施設が少なくないので、この辺りは、制度の問題で少しややっこしい話になりますが、お金の面では非常に重要なポイントになります。
なぜなら、「特定施設」の認可を受けていれば、一定の上乗せ介護費用を支払うことで24時間365日の介護が受けられますが、特定施設の指定を受けていない有料老人ホームの場合は、在宅介護と似たような形になるため、介護にかかる費用が変動する可能性があるからです。ホームが提供する介護サービスでは足りないと感じ、上乗せサービスを依頼すると、思ったよりも介護費用がかさんでしまうので、「介護付」であるか否かは、有料老人ホームを選択する際の重要なポイントになります。
ところで今回は、「特定施設」の認可を受けている介護付有料老人ホームの話に絞っていきます。介護付有料老人ホームの上乗せ介護費用は施設ごとに異なりますが、私が見学した中で多いと感じたのは、一番費用の高い要介護5の場合で月額3万円前後。要介護1の場合で月額6000円から8000円程度です。
公的介護保険の自己負担分に加えて、上乗せ介護費用を支払うのは費用負担が重いと感じられる方もいるはずですが、この上乗せ介護費用を支払えば、必要な介護サービスが24時間受けられます。必要となる介護サービスの量によっては、施設のほうが安くすむケースもあります。費用が固定化される点も安心でしょう。
とはいえ、自由に望んだ介護サービスを受けられるわけではありません。たとえば入浴介助は週に2回までは公的介護保険の給付内で受けられますが、週に3回以上入浴したい場合の負担は施設ごとにまちまち。3回までは追加負担なしで入浴できる施設があるいっぽうで、3回目以降は自費で支払って入浴をするケースもあるからです。高齢期に入ると、入浴は体力を使うので面倒だという方も増えていきますが、お風呂好きの方にとっては、週に2回なのか、3回なのかは、気にする必要があると思います。
【介護付き有料老人ホームの機械浴の例】
【介護付有料老人ホームの一般浴の例】
日中のイベント実施や参加の強制力は施設ごとに異なっている
自立型の有料老人ホームと異なるのは、介護付有料老人ホームの場合は、1日のスケジュールがある程度決まっていること。自立型では食事を施設内で取るか取らないはある程度自由選択ができましたが、介護型の施設では、食事に介助が必要な入居者も多く、朝食、昼食、夕食の3食とも施設内で取るのが一般的です。
また、リハビリテーションが必要な方以外にも、健康体操を習慣づけていたり、外部講師を呼んでおこなうさまざまなイベントも、「できるだけ参加してください」と促されるケースも少なくありません。
これは知り合いの女性(仮にAさんとします)の話ですが、Aさんは要介護3の認定を受け、自宅でのひとり暮らしが難しくなり、ある介護付有料老人ホームに入居しました。Aさんの希望は、美味しい食事をいただきながら、毎日読書でもして静かに暮らしたいというもの。ところが、Aさんが入居した施設は、毎日、午前と午後に1回ずつおこなわれる健康体操への参加を強制され、外部講師のイベントも、部屋で読書をしているにもかかわらず、参加を促されるなど、読書三昧の生活はかないませんでした。
まだ入居間もない時期の話だったので、クーリングオフ期間に解約し、Aさんは自由度の高い介護付有料老人ホームに転居しました。転居先の介護付有料老人ホームは、施設側からも「イベントなどへ参加してください」と促されるものの、実際に参加するか、否かは、入居者が自由に選べます。Aさんは今、転居先の介護付有料老人ホームで、24時間必要な介護を受けながら、読書三昧の余生を過ごしています。
Aさんの例のように、介護付有料老人ホームでの暮らしについてのスケジュールはある程度決まっているものの、運営会社によって、日中の過ごし方はかなり異なります。介護付有料老人ホームへの入居を考える方は、介護のことに意識が集中しがちですが、生活の場であることも強く意識して選ぶことをおすすめします。
【食事の温冷配膳カート】
【施設での昼食例】
食事は日々の最大の楽しみ 入居前の試食は重要
介護が必要になり、自分では外出が困難になると、楽しみにするのは食事です。写真では、昼食例をご紹介しており、写真の昼食は普通食になります。入居者の好みによって、ご飯の硬さを選べたり、嚥下状況が悪く、固形物を飲み込みにくい入居者には、ミキサー食などの特別食の対応もしているのが一般的です。中には「成形食」というのか、いったん細かく刻んだ食材を、元の食材と見た目が変わらないように成形した(固めた)食事を提供する介護付有料老人ホームも増えています。
食事は施設内で作っているところと、セントラルキッチンで作られたものを、施設で盛り付けているところがあります。また施設内で作っているところでも、ホームを運営している会社の職員が作っているのではなく、生協やNPO法人などと提携して、外注スタッフが対応している施設もあります。
介護型の有料老人ホームの場合、自分の力で外食するのは難しくなりますので、食事がおいしいかは、施設選びの際、重視すべきポイントになるでしょう。
【リハビリルームの例】
【売店】
施設内に売店があると自分で買い物ができて気分転換に
少しでも、健康だったときの状態に戻すため、あるいは病気の後遺症を軽減するため、リハビリのためのマシンが置かれている介護付有料老人ホームが多くなっています。写真は座位のまま、上半身を動かすリハビリの例。少し前には、パーキンソン病などの症候群で歩行が困難になった方の歩行を助ける大型の歩行器が置かれている施設を見学しましたが、こうした機械がどのくらい置かれているかは、施設ごとに異なります。
意外に重要なのは、売店や自動販売機の設置状況。自立しているときには、自由に行けた買い物も、要介護認定を受けてからはスタッフに同行してもらったり、買い物代行を頼む機会が増えていきます。介護状態になって施設で暮らしているときに、施設内に置かれている自動販売機にお気に入りの飲み物が売られていたり、売店で好きなお菓子が売っていると、自分で買い物ができて、ちょっとした気分転換にもなるからです。非常に数は少ないですが、ビールや焼酎の自動販売機を見かけたこともあります。夕食時にはビールを買って、晩酌を楽しみながら食事ができて、入居者に好評だとうかがいました。
要介護3以上でないと申請できなくなった特別養護老人ホーム
次は、介護が必要になった時、多くの方が選択肢として挙げる特別養護老人ホーム(特養)についてご紹介します。
特別養護老人ホームは、公的施設の代表的な存在です。原則として、要介護3以上と認定されている人が申し込める施設です。ただし要介護2までであっても、緊急性が高いなど、個々人の事情によっては、申請が認められるケースもあります。
公的施設である特別養護老人ホームは、費用負担が軽いことから、介護が必要な方の入所先に選ばれるケースが多くなっていますが、難しいのは、同じ介護度であっても、介護する親族がいないなど、その人の介護を巡る条件を考慮して、入所の優先順位が決められること。どのくらい待機すれば入所できるかが、わからないケースが多いことです。 そのため、特別養護老人ホームに入所できるまでは、介護付有料老人ホームで待機する高齢者も増えています。
特に都市部の特別養護老人ホームでは、待機者が数百人単位になっているホームもあります。とはいえ、特養の申し込みに「要介護3以上」という制限ができてからは、待機者の数も落ち着いてきています。たとえば、厚生労働省の資料によると、要介護1~2の人も申し込めた2014年度は52.4万人の待機者がいましたが、2019年度は29.2万人に減っています。さいきん、人口の少ない地域などでは、申し込みから数カ月で入所できる特別養護老人ホームも増えているようです。
特養には個室と多床室があり 増えているのはユニット型個室
高齢者の方がイメージする特別養護老人ホームは、何人もの同室者がいる多床室かもしれません。近年では、「ユニット型個室」と呼ばれる特別養護老人ホームの設置が進められており、個室に入所する方が増えています。
ユニット型個室とは、8~12室程度の個室を一つの単位(ユニット)として、運営するもの。ユニットごとに食堂や共有スペースが設けられ、食事もユニットごとに設けられた食堂で採ります。たとえば、1ユニットが10室の特別養護老人ホームで、4つのユニットがあれば、40室の個室がある計算になります。
ただし、ユニット型個室を中心に運営している特別養護老人ホームであっても、多床室も併設しているのが一般的で、多床室は4~6人程度が同じ部屋で暮らします。生活保護を受けている人の場合、ユニット型個室ではなく、多床室に入所するケースが多いようです。
【食堂を中心に、その周りに部屋がレイアウトされているユニットタイプの例】
【共有スペースの例】
【ユニット型個室の例】
費用負担は所得で決まる 所得が低ければ個室でも数万円
前述の通り、特別養護老人ホームの待機者が多いのは、費用負担が抑えられている点が理由です。特別養護老人ホームの場合の費用負担は、所得に応じて4段階に分かれており、所得が少ないほど、月額費用の負担も少なくなります。ただし数年前には、所得だけではなく、資産額についても考慮されることになったため、年金が少なくても、単身で1000万円、夫婦で2000万円を超える資産があると軽減措置の適用が受けにくくなります。
特別養護老人ホームで暮らす際の費用の目安ですが、一番費用負担の少ない第一段階の方がユニット型個室に入所する場合、月額負担は5~7万円くらいだと思います。一番高い第4段階の方ですと、同じ部屋でも15~16万円くらいは支払います。今ご紹介したのは介護保険の自己負担割合が1割の人のケースで、3割の人は22~23万円くらいかかります。22~23万円を支払うのであれば、もう少し上乗せして、介護付有料老人ホームの入所を選ぶ方もいます。
特別養護老人ホームの費用負担が抑えられているのは事実ですが、所得の多い方の場合は、積極的に介護付有料老人ホームを選択するという考え方もあるわけです。
また、特別養護老人ホームの場合、築浅できれいなホームも、数十年経った年季の入ったホームも、同じ地域にあれば、費用負担は同じです。特別養護老人ホームは見学が難しいので、それほどたくさんの数を見たわけではありませんが、今回、写真でご紹介したようなきれいな特別養護老人ホームを見学すると、自分が入所するのであれば、できるだけきれいなホームに申し込みをしたいと感じます。特別養護老人ホームを事前に見学する方も多くないように思いますが、「暮らしの場であること」を考えると、複数の特別養護老人ホームを見学してから選ぶことは重要だといえるでしょう。
執筆/ファイナンシャルプランナー・畠中雅子
新聞・雑誌・ウェブなどに多数の連載を持つほか、セミナー講師、講演、相談業務などをおこなう。40代以上のひきこもりのお子さんをお持ちのご家庭を対象に生活設計アドバイスをおこなったり、高齢者施設への住み替え資金アドバイスなどにも力を入れている。高齢者施設の見学回数は300回を超える。著者は、「貯金1000万円以下でも老後は暮らせる」(すばる舎)、「家計がみるみるラクになる保険BOOK」(サンキュ!ムック)、「ラクに楽しくお金を貯めている私の『貯金簿』」(ぱる出版)、「高齢化するひきこもりのサバイバルライフプラン」(近代セールス社)など、約70冊にのぼる。プライベートでは社会人の娘と、大学生の息子2人の母。