地元を離れている方は、長期休暇などを利用して帰郷する方も多いかもしれません。久々に親御さんや親類の方々と近況について話をすると、自然と「親類で病気になって入院した人がいた」「近所の人が介護施設に入所した」などの話題が出てくることはありませんか?40代や50代になると、自分のことよりも高齢者となった親のことが心配になってくる方も多いのですが、万が一、親が高齢者施設を利用することになった場合、「どんな施設があるのか」「どれくらいの費用がかかるのか」など、事前に調べることになりますよね。様々な施設の資料を取り寄せる前に、高齢者施設についての基礎知識を確認してみましょう。
目次
要介護3以上でないと、特養の申請はできなくなっている
「高齢者施設」という言葉を見聞きすると、多くの方は特別養護老人ホーム(以下.特養)を思い浮かべるように感じます。介護が必要な状態になって、かつ自宅で介護を受けるのは難しい方が入居するところ、といったイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。
特養の存在によって、「万が一、介護が必要になった場合でも暮らせる場所がある」という安心感は得られるものの、そのように単純に考えてしまうとリスクが生じます。その理由に挙げられるのは、特養の申請方法が変更になっている点です。
ひと昔前までであれば、「介護状態になって、自宅で介護を受けるのは難しい場合は特養に入所の申請すればいい」と考えるのが一般的でしたが、現在、「原則として要介護3以上」と認定されなければ、特養への入所申請ができない仕組みに変わっているのです。
いっぽうで、要介護者の「介護度別の人数」を見てみると、要介護1と2の人が全体の半分くらいを占めている現実があります。つまり要介護1~2に当たる約5割の人は、「特養の申し込みすらできない」現実があるわけです。施設入所を希望している人であっても、要介護2までは、在宅介護でしのぐか、介護付有料老人ホームなどの他業態に入居(入所)して、介護を受ける必要があります。
高齢者の急激な増加に合わせて介護制度も徐々に改正の手が加えられているため、「介護のお金」をきちんと検討しておく必要性は高まっています。自分や配偶者はもちろん、親の介護費用で窮する可能性もあるからです。そこでこのシリーズでは、「介護のお金」を考えるために必要な知識を取り上げます。今回はまず、高齢者施設の種類からご説明していきましょう。
高齢者施設には、公的施設と民間施設がある
高齢者施設には、大きく分けると「公的施設」と「民間施設」の2種類があります。まずは、それぞれに該当する施設を挙げてみましょう。
公的施設 | 民間施設 | |
施設の種類 |
特別養護老人ホーム(特養) 介護老人保健施設(老健) 介護医療院 |
介護付き有料老人ホーム
サービス付き高齢者向け住宅 ケアハウス 介護型ケアハウス グループホーム シニア向けマンション |
次は、それぞれの施設について、簡単に説明していきます。
・特別養護老人ホーム
特別養護老人ホームは先述の通り、要介護3以上と認定された人が入所する施設。10室程度の個室をひとつの単位として運営するユニット型と、数人が同じ部屋で暮らす従来型の多床室タイプがあります。国の助成があるため、所得ごとに認定された4段階のいずれかの費用を支払います。一番安い分類だと月額5~6万円、一番高い分類だと月額15-16万円程度の負担になります。
・介護老人保健施設
介護老人保健施設は、主に病院から退院した高齢者が、自宅に戻ることを目的としてリハビリなどをおこなったり、機能回復訓練などが必要な高齢者が入所する施設です。3カ月から6カ月程度で退所するのが原則ですが、現実には特別養護老人ホームへの入所を待つ人の待機施設になっているなど、本来の目的とは異なる状態になっている施設もあります。費用は場所によってまちまちですが、月額10万円から20万円程度、個室に入所する場合は月額20~30万円程度が一般的です。
・介護医療院
介護医療院は、介護療養型医療施設から2018年度に移行されてできた施設です。介護状態でありつつ、さらに医療的な措置が必要な人が入院するところです。介護認定を受けている人は、持病を持っている人も多くなっていますが、持病やり患した病気によっては、介護施設では対応できないこともあります。病気の治療が必要なケースでは、介護医療院への入院を選択するケースもあります。
・介護付有料老人ホーム
民間施設の代表的な存在が、介護付有料老人ホーム。「介護付」という言葉が付いた有料老人ホームは、「特定施設入居者生活介護」の指定を受けており、公的介護保険の自己負担分に加え、一定の上乗せ介護費用を支払うことで、24時間、365日の介護が受けられます。入居費用は立地や付帯施設などによっても異なりますが、安いところでは月額12~13万円程度で入居できるところがあるいっぽう、高い施設では月額50万円台の負担が必要なところもあります。なお入居一時金については、入居時にまとめて、あるいは一部を支払うプランと、入居時に一時金は支払わずに、月々の費用に上乗せするプランから選択できます。
・サービス付き高齢者向け住宅
サービス付き高齢者向け住宅においては、「安否確認」と「生活相談」はすべての施設で提供されています。フロント機能があるのが一般的ですが、食事や介護のサービスなどは、施設ごとにまちまちです。付加価値が付いているため、周辺地の家賃相場や管理費相場などよりも、費用負担は高めに設定されています。賃貸契約になるため、高額な入居時費用は不要。比較的元気なうちに入居して、介護が必要になった場合は、サ高住内で在宅介護を受けるか、転居します。
・ケアハウス・介護型ケアハウス
ケアハウスは60歳以上で、入居時には自立している高齢者が入居を申し込める施設です。マンションのような建物や有料老人ホームのような建物もあります。ケアハウスのメリットは、費用の安さで、都市部でも月額10万円以下で暮らせるケアハウスもあります。入居時の費用も数十万円程度ですむところが多くなっています。
介護型ケアハウスは、介護が必要になった人が入居できるところ。介護付有料老人ホームと同じ「特定施設入居者生活介護」の指定を受けており、ケアハウスの月額費用と介護保険の自己負担分、さらに数万円程度の上乗せ介護費用を支払えば、要介護5まで継続して入居できます。
・グループホーム
認知症を発症した方が共同で暮らす住まいです。一軒家の中で暮らすタイプと、有料老人ホームのような建物の中で暮らすタイプなど、運営者によって暮らし方はまちまちです。運営方法の違いによっても月額費用はさまざまですが、15~25万円くらいかかるのが一般的です。
・シニア向けマンション
シニア向けマンションは55歳以上、60歳以上などの一定年齢以上の方が住む場所で、分譲型と賃貸型があります。比較的元気な高齢者が住む場所であるため、マンション内、あるいは隣接した場所にリクリエーション施設を設けているマンションも多くなっています。介護が必要になった場合は、マンション内で在宅介護を受けるか、介護付有料老人ホームや特養などに転居します。分譲型のマンションは、転居後に売却も可能です。
ここに挙げた施設は代表的なもので、かかる費用は筆者が見学を重ねる中で一般的と思われる金額例を挙げています。現実的にはNPO法人などが運営している民間の施設もあって、表記した金額よりも安い費用で入居できる施設もあります。費用に関しては、「自分の所得ではいくらかかるのか」について、それぞれの施設の情報を調べるのが確実です。
次回は、施設での暮らしの様子をご紹介していきましょう。
執筆/ファイナンシャルプランナー・畠中雅子
新聞・雑誌・ウェブなどに多数の連載を持つほか、セミナー講師、講演、相談業務などをおこなう。40代以上のひきこもりのお子さんをお持ちのご家庭を対象に生活設計アドバイスをおこなったり、高齢者施設への住み替え資金アドバイスなどにも力を入れている。高齢者施設の見学回数は300回を超える。著者は、「貯金1000万円以下でも老後は暮らせる」(すばる舎)、「家計がみるみるラクになる保険BOOK」(サンキュ!ムック)、「ラクに楽しくお金を貯めている私の『貯金簿』」(ぱる出版)、「高齢化するひきこもりのサバイバルライフプラン」(近代セールス社)など、約70冊にのぼる。プライベートでは社会人の娘と、大学生の息子2人の母。