音楽に必要な編集作業の「楽しみ」は、「辛さ」を乗り越えた先にやってくる<音楽を通して「楽しむ」 vol.1>

【コラム】暮らしをワンランクアップ

私たちの周りには音楽が溢れています。その美しい音色、ワクワクする音色に心躍ったり、あるいは音楽に慰められたり…… そんな音楽をより楽しむためには……?!

3回に渡り、作曲・編曲・ピアノ・キーボードのプロでいらっしゃる宮原慶太さんに、「音楽を通して『楽しむ』」をテーマに、お話しいただきます。

長年音楽に携わっていらっしゃる宮原さんに、音楽を「楽しむ」ツボ、すなわち押さえるべき点、どこを楽しむか、という点について、教えていただきましょう。
第1回目の今回のテーマは、「音楽を通して『楽しむ』_編曲編」です。

■第1回目 「音楽を通して『楽しむ』_編曲編」←この記事はこちら
■第2回目 「音楽を通して『楽しむ』_演奏家編」
■第3回目 「音楽を通して『楽しむ』_オンラインレッスン編」

 

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音を楽しむ「音楽」

「楽しみながら」「楽しんで」というワードが、仕事やほかの事をするときによく使われます。スポーツや困難な状況の過程で、あえて「楽しみ」を感じることで、本来、近くに感じる「辛さ」「ネガティブな感情」を回避することができる、「苦労」を感じないですむし、「ポジティブ」な感覚になり良い結果に結びつきやすい、というイメージからでしょうか。

では、音楽の場合はどうでしょうか? 「音を楽しむ」と書くのですから、「楽しみながら」「楽しんで」という言葉との相性は抜群のようにも思えます。

musicと楽譜

 

「編曲」とは?

早速「編曲」という仕事について、触れていきましょう。メロディだけのもとの曲があり、それに歌を載せるためのカラオケを制作したり、弦楽四重奏や、フルオーケストラなど決められた編成の演奏用の楽譜を作ることが編曲の仕事です。オリジナル作品に限らず、有名曲のカバーなどのリメイク的な制作もあります。

パソコンとヘッドフォン

この作業には、楽器の音域や音量、歌であれば歌手の音域、特性などを正確に把握しておく必要があり、これらは感覚ではなく勉強して得られる知識として蓄積されていなくてはなりません。生でそれぞれの楽器の演奏を聴く機会は以外に少なく、ましてや自分の楽譜を全ての楽器に演奏してもらうことは、まずありません。しかし、これをやってみないとそれぞれの楽器の持つ個性はわからないし、そのための経験値が必要な分野なのです。

いきなりは「楽しめない」=段階が必要

さて、こんな編曲の作業をどうやって「楽しむ」作業にするのかというと、いくつかの段階を経なくてはなりません。

駆け出しのころは、編曲というのはなかなか私にとって辛い作業でした。思うような結果が得られなかったことが、何回あったでしょうか…… というのも、知識も乏しかったため、発注に対する答えを出す力が明らかに不足していたのです。また、自分の作業結果に自信が持てなかったため、クライアントと接するときもお伺いを立てるような気持ちでした。とても「楽しんでいた」とは言えません…。

やはり「楽しむ」ようになるには、土台となる自分がしっかりとなくてはなりません。そのためには「ある程度の経験値」が必須であると理解しました。つまり、編曲のような感覚以外のスキルの必要な仕事は、いきなり楽しむことはできないのです。

基本的なことで言えば、ベースとなるリズムが8ビート、16ビートなど基本のリズムを知らないと、そのリズムに必要なドラム、パーカッションの構成を作ることができません。

そのほかに、例えばバイオリンやビオラ、チェロが複数入るストリングスセクションを加える時は、それぞれの楽器の音域、響きの特性、組み合わせ方を知らないとよいサウンドになりません。トランペット、トロンボーン、サックスなどを組み合わせるブラスセクションなどはその人数や規模もさまざまで音量や楽器の得意不得意、音域、組み合わせの基礎などを把握している必要があります。これらは実際に楽譜を書いて、それを演奏してもらわないとわからないことです。

バイオリン奏者

鉛筆で五線の上に音符を書いても、その通りのサウンドが得られるかどうか確信がないうちはとても「楽しい」作業にはなりえません。大きなスタジオで数十人の演奏家の前で変な音楽にしかならず、恥をかくのは編曲した自分だからで、その場で取り返しがつかない事態でプロジェクトが滞ってしまう…その重圧はなかなかなものでした。

 

「辛い作業」という発想の払拭

それでも「辛い作業」という発想を捨てることが大事です。

慣れないうちは編曲作業はやることが多く、一つ一つうまくいかないと辛く感じることもあります。あまりうまくいっていない、と感じても細かいことにとらわれず先に進んでいくことです。つまづいてばかりいては煮詰まるばかりです。例えば私の場合は、うまいイントロが思いつかないとか、間奏がうまくつくれない、とかいうときは、あまり細部にこだわらず大雑把なまま作業を進めていきます。

意見を聞ける人がいれば、アドバイスを求めるのもよい手段です。最終的な判断は自分でするにしても、経験のある人に作業の過程を見て意見をもらう事は大きな自信になります。私も慣れないときは、何人かに自分の書いた楽譜を見てもらったものでした。

ヘッドフォン

辛さを乗り越えた先で、「楽しむ」ことができる力

こういったときに継続できる力、というのはとても大事です。粘る力とでもいいましょうか。解決策を探り続けるには事態に向かい続ける持続力が不可欠で、そこに「辛さ」を感じるよりも楽しめるかどうか、が一番大事な「楽しむ」ポイントだと思います。あいまいなまま逃げてしまっては解決にはなりません。

全体が見えてくると、不思議と気持ちも楽になり、楽しくなってくるものです。あまり自信が持てなくても深く考えないで楽観的に見ることも大切です。

全体が見えたら、次は細部にこだわっていきます。これは編曲に限らず物事の制作、プロダクト全てに関わる大切な事だと思いますが、細部の詰めが全体の完成度を高めていきます。何度かやっているうちに、自分のやり方、手法、得意な方法が分かってきます。そういった方向に今取り組んでいる案件を持っていくことができればしめたもので、結果、作業はとても楽しいことになります。

つまりは「楽しみ」ながら作業をするためには最低限の経験値は必要で、そのうえで完成までの問題解決の過程を「楽しむ」ことができれば良い結果につながるといえます。

 

宮原慶太宮原慶太
作曲・編曲・ピアノ・キーボード
5歳よりクラシック・ピアノを習い始め、中学2年の時に当時芸大3年生の坂本龍一にピアノを習う。1981年1月に、当時NHK「シルクロード」で人気の喜多郎のツアーに参加した後、1994年の秋より髙橋真梨子のツアーに参加。すべてのコンサート、ディナーショーのピアノ、コンサート・マスターを勤める。SK-Ⅱ他、多くのテレビCM音楽を制作。その他、アニメのテーマ曲、企画アルバムの作編曲など幅広く活躍。現在はNHK教育番組や天気予報のBGMなど多くの作品を作り続けている。2020年公開の映画「星屑の町」(主演:のん、他)のサウンドトラック、および劇中歌のオケの製作、音楽監督を行う。ソロ活動としては自身のソロアルバム他、グループ「フェイブル」で三枚のアルバムを発表している。
◆宮原慶太HP◆

 

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