オンラインレッスンで気付いた「教えない勇気」から楽しさを導く<音楽を通して「楽しむ」 vol.3>

【コラム】暮らしをワンランクアップ

コロナ禍で私たちの暮らしでも、色々なことが変わりました。

今までの当たり前が通用しなくなり、さまざまな新しい形が導入された代名詞とも言えるのが「リモート」での仕事やレッスン、授業などではないでしょうか。

作曲・編曲・ピアノ・キーボードのプロでいらっしゃる宮原慶太さんに、「音楽を通して『楽しむ』」をテーマにお話しいただくシリーズ。第1回目は「音楽を通して『楽しむ』_編曲編」として、「辛さ」を乗り越えた先にある「楽しみ」について、第2回目は「『準備』があってこそ楽しめる」という備えについて教えていただきました。

第3回目となる今回は、「音楽を通して『楽しむ』_オンラインレッスン編」として、お話を伺いたいと思います。ニュースタンダードともなってきたオンラインレッスンの魅力とは?

■第1回目 「音楽を通して『楽しむ』_編曲編」
■第2回目 「音楽を通して『楽しむ』_演奏家編」
■第3回目 「音楽を通して『楽しむ』_オンラインレッスン編」←この記事はこちら

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否定的だったはずが、今は100%オンラインレッスン

コロナ禍の影響で、対面からオンラインに100パーセント移行した、ピアノのレッスン。ピアノ以外にも音楽制作のソフトDAWのレッスンや音楽理論も、今では全てオンラインで行っています。

オンラインレッスンについては、それまでは対面と比較して目の前での指導演奏ができない、というデメリットばかりが気になり、とても始める気にはなりませんでしたが、いざ行ってみると多くのメリットがあることにも気づかされました。

オンラインレッスンの様子

私が教えている方の多くは、楽譜もある程度読めるし、音楽になじみがあり、自らの意思でピアノを習いたい、という成人の方がほとんどです。こういった方は鍵盤になじみはあるし、指はそれなりに動くのですが、知っているメロディの伴奏を自分で作ることができない、あるいはその方法を知らない方がほとんどです。

ピアノのレッスンというのは、指を動かす練習とクラシックの譜読みがその全てで、自分で伴奏を作るようなことはしません。そういった方たちに対して、伴奏の作り方やメロディの装飾の仕方、ゴージャスに変える方法を私がどうやって伝授しているか、その時に注意している点を述べていきましょう。

何が正解かは、各自がどう弾きたいか、によって変わる

私は個人レッスン専門で教えています。よって、習う方の現状のスキルをなるべく正確に把握します。運指のテクニック、手の大きさ(これによって使えるテクニックが変わってきます)、音楽の知識、など多項目にわたり生徒さんの演奏を聴いたり、話たりして掴んでいきます。そこにはかなりの個人差があり、ある方は指はすごく動くけど、伴奏を作るための知識はほとんど持ち合わせていない、とか、その逆で指は動かないが、音楽理論はかなり詳しい、とかさまざまです。また、ピアノを使って演奏したい曲やジャンルもさまざまで、これも深く聞いてみるといろいろな意見がでてきます。

これらを把握したうえで、個々に対し少しずつ上のステップに上がれるような課題を用意します。個人レッスンならではのやり方でグループではこのようにきめの細かい内容は作れません。教える側にもそれなりのキャパシティがないと、さまざまな場合に対応するような内容は組めません。

ピアノを弾く手

私の教えるピアノはメロディのみが音符で書いてあり、左手部分はほとんど空白になっています。右手でメロディを弾き、左手の伴奏はコードという和音の決まり事を記号化したものを見て、生徒さんが自身で作って弾きます。

メロディも、音符にこだわらず自分なりに変えてもらってもかまいません。何が正解かは、各自がどう弾きたいか、によって変わってきます。書いてある音符を弾くことだけをやってきた人たちは当初どうやっていいかまったくわからず途方にくれるのですが、いくつか方法を示すと、あとは自主的に好みの方法を探っていくようになります。こういった模索は楽しい作業になっていきます。

スキルアップはあとから必ずついてくる

メロディ以外は空白ということは、左手は各自の持っているスキルによっていろいろな難易度のレベルの伴奏をつけることができ、それぞれのレベルに合わせてピアノ演奏を楽しむことができるわけです。

音符

初心者であれば、音域の狭い簡易な伴奏で右手は単音のメロディで充分に音楽を楽しめます。中級者であれば、左手は音域を広くしてみたり、右手はメロディを単音でなく、音を重ねてみたり、オクターブにしてみたりと自身のスキルに合わせて編曲をしていきます。

これらを教える時に一番注意していることは、「教えすぎない事」です。「今あるスキルの少し上のステップ」を示してあげることがとても大事で、常に新しい事が学べる、という楽しみを感じていただけます。どうしてもこちらも力が入りすぎると、高度なテクニックを披露して生徒さんにも求めたりするのですが、これは度が過ぎると全く逆効果で、「これは弾けない」と感じさせてしまうのは大きな失敗です。ここにはものすごく気を使っています。「教えない勇気」とでもいいましょうか、「過ぎたるは及ばざるがごとし」です。

このように、レッスンに対する私の考え方が昔と今では全く違います。オンラインになって距離が生まれた分より気を遣いますが、レッスン終了時に納得いく時間を過ごしていただけたかどうか、は常に意識しています。そこで大事なのが、やはり「楽しんで」いただけたかどうかです。「辛い」と感じるレッスンは継続しません。やはり「楽しかった」と思える時間はまた経験したいものです。そのために練習しスキルアップもしていければ、そのために支払う費用も納得ができるものになります。

昔、対面のレッスンをやっていたころは真面目に教えることが全てでした。与えた課題に対してこなせるかどうか、弾けているかどうかのみで判断していました。できていれば先に進み、弾けていなければ、繰り返してやらせる。習う側の気持ちや、人間性など一つも考えず、純粋に音楽の出来不出来のみで対応していましたが、いまではそれ以外の要素を大事にしています。それは生徒さんにとって「ピアノを弾くことを楽しい」と感じてもらうことです。レッスンの対価に匹敵する、あるいはそれ以上の「楽しみ」が得られたかどうか、です。そこがまずクリアできれば極端な話ですが、スキルのアップはあとから必ずついてくるし、継続もしていくものと信じています。

宮原慶太宮原慶太
作曲・編曲・ピアノ・キーボード
5歳よりクラシック・ピアノを習い始め、中学2年の時に当時芸大3年生の坂本龍一にピアノを習う。1981年1月に、当時NHK「シルクロード」で人気の喜多郎のツアーに参加した後、1994年の秋より髙橋真梨子のツアーに参加。すべてのコンサート、ディナーショーのピアノ、コンサート・マスターを勤める。SK-Ⅱ他、多くのテレビCM音楽を制作。その他、アニメのテーマ曲、企画アルバムの作編曲など幅広く活躍。現在はNHK教育番組や天気予報のBGMなど多くの作品を作り続けている。2020年公開の映画「星屑の町」(主演:のん、他)のサウンドトラック、および劇中歌のオケの製作、音楽監督を行う。ソロ活動としては自身のソロアルバム他、グループ「フェイブル」で三枚のアルバムを発表している。
◆宮原慶太HP◆  http://www.studio-pianoforte.com/

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