大勢の前に立つ。大勢の人の前で、何かをする。
そんなシーンを想像しただけでも、プレッシャーを感じてしまう人もいるでしょう。逆に、プレッシャーに強い!と自覚している人の場合は、ワクワクする瞬間かもしれませんね。
でも、そのプレッシャーに負けないために、言い換えればプレッシャーに打ち勝つためには???
作曲・編曲・ピアノ・キーボードのプロでいらっしゃる宮原慶太さんに、「音楽を通して『楽しむ』」をテーマにお話しいただくシリーズ。第1回目は「音楽を通して『楽しむ』_編曲編」として、「辛さ」を乗り越えた先にある「楽しみ」について教えていただきました。第2回目となる今回は、「音楽を通して『楽しむ』_演奏家編」として、お話の続きを伺いました。
■第1回目 「音楽を通して『楽しむ』_編曲編」
■第2回目 「音楽を通して『楽しむ』_演奏家編」←この記事はこちら
■第3回目 「音楽を通して『楽しむ』_オンラインレッスン編」
目次
突然やってくるパニック状況
ここでは音楽を演奏しながら「楽しむ」、ということについて掘り下げてみたいと思います。
自分が取り仕切っているグループなどの場合は何が起きても自己責任と割り切れる分、気が楽で「楽しみ」やすいのですが、大きなコンサートでの歌い手のサポートの場合などはちょっと事情が変わってきます。
大御所の大ホールでのコンサート。ピアノ一人でイントロ、ワンコーラスはピアノ伴奏だけで歌う、しかもコンサートも大詰めで聴かせどころ、なんていうところでの一人での演奏を「楽しむ」という状況にもっていくのはなかなか容易ではありません。伴奏者は私だけなので、私が間違って止まってしまえば、音楽が止まってしまう。コンサートはぶち壊しです。必ず暗譜しなくてはならないので、記憶が飛んでしまって、次に何を弾くかわからなくなるとパニックになる……
しかし時として、「まさか!」「そんなことが!」という事が人間には起こります。
入念な準備があってこそ「楽しめる」
だからこそ、「楽しむ」の裏には、入念な「準備」が必要なのです。
私も若いころは、翌日のことなど何も考えずに、コンサート終了後は楽しんでいたものでした。
解放感から余計に楽しく感じていたものです。ところが、そういった生活を続けていると、ある日大きな失敗をすることになりました。間違ってはいけないところ、というのが必ず何か所かあり、そこでミスをやらかすと音楽が止ってしまうという大事なところです。
何気なく通過できるはずが、そういったところで大きな失敗をしてしまったことがありました。あとで関係者に頭を下げて詫びましたが、二度と同じ過ちを起こしたくないので、その原因を考えると、コンサートに臨むまでの、準備の至らなさにあるのだと、気が付きました。本番に集中し良いパフォーマンスを発揮できるようにするためには、それ以前にやることがあるのです。
まず、演奏の当日に体調が万全でなくてはなりません。たとえ万全でなくても、それに準じて不安のない状態にはしておきたいものです。前夜の遊びすぎによる寝不足などは問題外です。また、風邪などによる発熱、暴飲暴食による胃腸の疾患なども準備の不足になります。
また、演奏家以外の作曲、編曲の仕事を同時に抱えている場合、その当日には100パーセント演奏家、としての自分になっていたいため、頭の切り替えも必要でそれに備えた直前の練習が必須となります。暗譜の確認も年齢を経ると記憶が怪しくなってくるので必要、など「準備」にはそれなりの時間を要します。
「楽しむ」と「いい準備」の切っても切れない関係
これらの準備が整って初めて、コンサートの本番でいわゆるゾーンに入ることができれば、どのような状況でもプレッシャーにつぶされることなく良いパフォーマンスを発揮することができます。
良いパフォーマンスを発揮することができるときは、シンプルに「楽しむ」ことができ、満足できる演奏になります。何をやっても間違える気がしないし、間違えることが怖い、というような意識も全くなくなり、集中を通り越して没頭した状態になるのです。
とは言え、いつでも同じように準備してもうまくいかないときもあります。
いつもと同じように調整して準備しているはずなのに、なぜかつまらないところでミスしてしまったり、集中が続かなかったりする。当然ながらこういったときは本番中演奏を楽しめず、間違えを気遣い慎重になってしまう。もっとも客席で観ている方たちにはわからないとは思いますが。
こういう日はコンサートが無事終了すると充実感というよりは安堵感のほうが強いです。このように「楽しめない」日も必ずあるのですが、それでもまた演奏はしなくてはならないのです。次には楽しめるようにまた準備をし続けることが大事なのです。
「いい準備をして」という言葉も「楽しんで」と同様によく聞かれる言葉ですが、どちらも大事で大きな関連があると思います。
宮原慶太
作曲・編曲・ピアノ・キーボード
5歳よりクラシック・ピアノを習い始め、中学2年の時に当時芸大3年生の坂本龍一にピアノを習う。1981年1月に、当時NHK「シルクロード」で人気の喜多郎のツアーに参加した後、1994年の秋より髙橋真梨子のツアーに参加。すべてのコンサート、ディナーショーのピアノ、コンサート・マスターを勤める。SK-Ⅱ他、多くのテレビCM音楽を制作。その他、アニメのテーマ曲、企画アルバムの作編曲など幅広く活躍。現在はNHK教育番組や天気予報のBGMなど多くの作品を作り続けている。2020年公開の映画「星屑の町」(主演:のん、他)のサウンドトラック、および劇中歌のオケの製作、音楽監督を行う。ソロ活動としては自身のソロアルバム他、グループ「フェイブル」で三枚のアルバムを発表している。
◆宮原慶太HP◆ http://www.studio-pianoforte.com/