みなさんはご自身の価値観や感性に従って創造活動に取り組まれていますか?
実は誰かが決めた企画や仕様に従った仕事ばかりに追われていませんか?
お子さんにも自分の意志でチャレンジする場を提供していますか?
おとなにもこどもにも大切な視点である、自分自身の価値観や感性に従って創造活動を行う「STEAM教育」。最近、メディアを通して、この言葉を目にしたり耳にしたりする機会も増えてきているのではないでしょうか。
今回から2回に渡り、この「STEAM教育」について、株式会社KAMAKEのすすめ 代表取締役であり、東京学芸大こども未来研究所 STEAM教育プロジェクトにて教育支援フェローを務めておられる北山貴彦さんに紹介していただきます。
目次
STEAM教育とは?
みなさんはSTEAM教育という言葉を聞いたことがありますでしょうか?
Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Arts(芸術)、Mathematics(数学)の頭文字を取った名前であり、この5つの領域を横断して学びを深める教育手法の一つです。探究型学習や課題解決型学習に続いて、近年注目されている教育手法です。
さて、ここで初めてSTEAM教育について聞いたという方はおそらく、“Arts(芸術)って何?”、“なぜArts(芸術)が必要なの?“という疑問が浮かぶと思います。
この解釈は各教育機関や研究者によって様々な捉え方がありますが、今回は私が考えるArts(芸術)とその必要性についてご紹介したいと思います。
論理性・客観性偏重から価値観・感性の醸成へ
まず私がSTEAM教育に興味を持った背景は、冒頭の質問に関連しています。
現代の社会人生活において、自分自身の価値観や感性に従ってモノゴトを創る機会、創造活動の場が非常に少ないと私は感じております。論理性・客観性というのは強く求められる世の中ではありますが、論理性や客観性を重視すればするほど、人間が本来持っている価値観や感性に従った行動が非常に取りづらくなっていると思います。これは私たち人間にとっては大きなストレス環境となってしまいます。
しかし、本来人間にとって自分自身の価値観や感性に従って創造活動に取り組むことは、先が見えない環境を生き抜く手法であり、それは結果的に自由を手に入れる手段となります。これは、人間の本望的な生き方です。そのように活動できる場を仕事やプライベートの時間に取り入れるべきだと私は考えています。
ここで、このような創造活動の場を現代社会において作ろうとするときに注目したいのがテクノロジーです。実はテクノロジーの進化により、私たちは肉体労働から解放され、さらに近年では単純な知的労働からも解放されつつあります。これにより、創造活動の手段と時間の確保が可能となってきているのです。さらに、最新のテクノロジーが新しい創作手法や表現方法、情報伝達手段を提供してくれ、私たちの創造活動の幅を大きく広げてくれているのです。このようなテクノロジーの進化により、私たちはテクノロジーを活用して自分自身の価値観や感性に従って創造活動に取り組みやすい環境を獲得しているのです。
そして、それは私たちおとなが置かれている状況に合わせて、こどもたちも同様の環境に置かれています。学力を向上させる取り組みのほとんどが論理的思考・客観的思考をベースにしたものであり、その子自身の価値観や感性を育む時間というのは、社会の流れに従ってどんどん短く、少なくなっています。一方で、テクノロジーの進化によりこどもたちの学習効率を上げていくことや、PC一台で多様な創造活動に取り組むチャンスがあるのです。
このような時代の流れに応じて生まれてきたのがSTEAM教育だと私は考えています。人間が本来持っている自分自身の価値観や感性に従って創造活動に取り組む場を教育現場に取り入れていこうとする教育手法がSTEAM教育なのです。
人間の創造性とは?
では、私たちが創造活動に取り組むためにはどのような視点で行うべきなのでしょうか?
この疑問にお答えするために、創造性に関して著名な研究結果をご紹介したいと思います。
それは、ハーバード・ビジネススクールのテレサ・アマバイルの“創造性の4つの構成要素” [参考文献 1]です。アマバイルによると、人間の創造性は
Ⅰ 専門スキル
Ⅱ 創造性プロセス
Ⅲ 内発的モチベーション
Ⅳ 社会環境
の4つの要素の影響を受けるということです。この理論について、私は解釈を示します。
まず社会に対してシャープなアイデアを提供するためには、“Ⅰ 専門スキル”を通じた独自の視点が必要であり、その視点に基づいたアイデアを生み出し磨いていく“Ⅱ 創造性プロセス”を活用できるスキルや経験を保持しているかが重要な要素であるということです。
また、さらなる前提条件としては、そもそも課題を解決したい・アイデアを実現したいというモチベーション、または自分はその課題を解決できるという自己効力感(ある課題に対して自分は解決できるという根拠のない自信)である“ Ⅲ 内発的モチベーション” を持っているかどうか、提案しているアイデアが社会の要求にマッチしているか、またはそのようなチャレンジを許容する環境にいるかなどの“ Ⅳ 社会環境”が重要な要素であるということです。
この4つの要素が自分自身の価値観や感性に従って創造活動に取り組むために必要なスキルセットなのです。よってSTEAM教育を実践する際には、この4つのスキルセットを身に付けられるような活動を実践していくべきです。
それでは具体的に、どのようなSTEAM教育をおうちで実践すればいいのか? が気になるところかと思いますが、それについて次回のコラムにてお伝えしたいと思います。
【参考文献】
[1] Teresa M. Amabile, Creativity In Context: Update To The Social Psychology Of Creativity, Amazon Services International, Inc.
[2] R. Keith Sawyer, Explaining Creativity: The Science of Human Innovation, 2011/10/15.
本コラムにてお伝えしているSTEAM教育の考え方は神戸芸術工科大学 映像表現学科助教 金箱淳一 先生と玉川大学 工学部エンジニアリングデザイン学科助手 平社和也 先生と株式会社KAMAKEのすすめ 北山により構成されるSTEAM教育構想ワーキンググループの活動によって得られた知見を基に北山が執筆しております。改めて金箱先生、平社先生に感謝を申し上げます。
株式会社KAMAKEのすすめ 代表取締役
東京学芸大こども未来研究所 STEAM教育プロジェクト 教育支援フェロー
神戸大学 大学院工学研究科電気電子工学専攻 修了2013年 半導体メーカー ルネサスエレクトロニクス株式会社へ入社し、自動運転向け半導体の開発、製品企画、顧客対応に従事。2017年に同社を退社し、株式会社 KAMAKEのすすめ を設立。「感動体験は人生の道しるべ」を合言葉に、こどもから社会人まであらゆる世代の人々が自分自身の価値観や感性に従ってテクノロジを活用した創造活動に取り組むことができる社会の実現を目指して、プログラミング教育・セミナー事業を展開している。